「預金は相続したい。でも田舎の土地はいらないから、土地だけ相続放棄したい」。相続の相談で、本当によく出てくる希望です。
先に結論を言うと、土地だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄は「全部もらうか、全部手放すか」の二択です。私は売買がメインの現役不動産営業(6年半)として、相続がらみの土地の相談を数多く受けてきました。この記事では、その二択の仕組みと、「いらない土地」への現実的な対処を解説します。
相続放棄は「全部か、ゼロか」
相続放棄とは、家庭裁判所に申述して「はじめから相続人ではなかった」ことにする手続きです。効果は財産の全体に及びます。
- 放棄すれば、預金も家も土地も、すべて相続しない
- 借金などのマイナスの財産も引き継がない
- 「この財産だけ放棄」「この財産だけ相続」という選り好みはできない
だから「土地だけいらない」という希望に対して、相続放棄は直接の答えになりません。放棄が検討に値するのは、プラスの財産よりマイナス(借金・処分困難な不動産の負担)が大きいと判断できる場合です。
期限は「知ってから3ヶ月」
相続放棄には期限があります。自分が相続人になったことを知ったときから3ヶ月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。
3ヶ月というのは、財産の全容を調べて判断するには意外と短い期間です。間に合いそうにない場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てる方法もあります。「気づいたら過ぎていた」が一番もったいないので、期限だけは最初に押さえてください。
うっかり「相続したことになる」行為に注意
熟慮期間中でも、相続財産を処分するなどの行為をすると「単純承認」といって相続を承認したものとみなされ、以後は放棄できなくなることがあります。実務で危ないのは、たとえばこんな行動です。
- 亡くなった方の預金を引き出して使う
- 形見分けの範囲を超えて財産を持ち帰る・売る
- 不動産の名義を変える、貸す
放棄を少しでも検討しているなら、財産には手を付けずに専門家へ相談するのが鉄則です。
放棄しても終わらないことがある。管理の問題
ここが意外と知られていないポイントです。相続放棄をしても、その時点でその土地・建物を「現に占有している」場合には、次の相続人などに引き渡すまで保存義務が残るとされています(2023年施行の改正民法で整理されました)。
たとえば実家に同居していた相続人が放棄した場合、放棄したからといって翌日から放置してよいことにはならない、ということです。一方、遠方に住んでいて実家を占有していない相続人であれば、この義務は基本的に及ばないと整理されています。ここは個別性が強いので、該当しそうな方は弁護士・司法書士への確認をおすすめします。
放棄は「次の順位」に回る
もう一つの現実問題として、あなたが放棄した相続権は消えるのではなく、次順位の相続人に回ります(子→親→兄弟姉妹)。全員が順に放棄していくと、最終的に相続人不存在となり、利害関係人の申立てで相続財産清算人が選任される流れになります(予納金として数十万〜100万円程度かかるケースがあると言われます)。
実務で見てきた中では、「自分は放棄したが、何も知らない親戚に相続権が回って揉めた」というケースが実際にあります。放棄するなら、次順位の親族への一報まで含めて段取りするのが、後々のトラブルを防ぐ動き方です。
「いらない土地」への現実的な対処 4パターン
土地だけを切り離せない以上、対処は次のどれかになります。
- 相続したうえで売る。まず査定で「本当に売れないのか」を確認します。実務では、所有者が「売れない」と思い込んでいるだけで、価格次第で買い手がつく土地も少なくありません(売れない土地の手放し方参照)
- 相続したうえで引き取ってもらう。専門業者の買取・引き取り(空き家の引き取り・買取サービス)や、相続土地国庫帰属制度(要件と費用の解説)という出口があります
- 財産全体を見て、本当に放棄する。マイナスが大きいなら正当な選択です。3ヶ月の期限内に家庭裁判所へ
- 遺産分割で土地を引き受ける人を決める。相続人が複数いる場合、土地を(処分費用相当の代償とセットで)誰かが引き受ける分け方も実務ではよく使われます。安易な共有名義だけは避けてください。次の相続でさらに動かせなくなります
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相続した実家や土地は、売れるかどうかを数字で見てから方針を決めるのが近道です。相続不動産を専門に買い取る会社の査定は無料で、売る義務もありません。
まとめ
- 相続放棄は全部か、ゼロか。土地だけの放棄はできない
- 期限は「知ってから3ヶ月」。財産に手を付けると放棄できなくなることがある
- 放棄しても、占有している場合は保存義務が残る。相続権は次順位へ回る
- 「いらない土地」は、売る・引き取ってもらう・国庫帰属など、相続したうえでの出口も比較する
実家まるごとの処分手順は田舎の実家を処分する手順と兄弟間の落とし穴で詳しく解説しています。
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。相続放棄の可否・期限・義務の範囲は個別の事情によって判断が分かれます。実際の手続きは弁護士・司法書士等の専門家に必ずご相談ください。




