「負動産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「不動産」をもじった言葉で、持っているだけでお金が出ていき、売ろうにも売れない不動産のことを指します。読み方は「ふどうさん」ですが、不動産と紛らわしいので「まけどうさん」と呼ぶ方もいます。
私は売買がメインの現役不動産営業として6年半、査定の現場に立ってきました。正直に言うと、査定依頼の中には「値段がつきません」とお伝えせざるを得ない物件が一定数あります。この記事では、業界の内側から見た負動産の実態と、それでも手放すための現実的な選択肢を解説します。
負動産とは——「資産」の逆側にある不動産
不動産は本来、資産です。ただしそれは「使える・貸せる・売れる」のどれかが成り立つ場合の話です。この3つがどれも成り立たないと、不動産は毎年コストだけを生む存在に変わります。これが負動産です。
典型的な負動産には、こんなものがあります。
- 誰も住む予定のない田舎の実家(空き家)
- 相続した山林・原野・農地(原野商法で買わされた土地を含む)
- 利用者が減ったリゾートマンション・別荘
- 再建築ができない土地(接道義務を満たさない土地)に建つ古家
- 共有名義がこじれて動かせなくなった物件
なぜ負動産が生まれるのか
背景はシンプルで、人口が減っているのに家と土地は減らないからです。総務省の住宅・土地統計調査では、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13%を超えて過去最高を更新し続けています。
需要が細った地域では、不動産の価格を下げても買い手が現れません。実務の感覚で言うと、「安ければ売れる」が成り立つのは需要がある場所だけです。需要ゼロの場所では、タダでも引き取り手がいない——これが査定の現場で起きていることです。
そして負動産の多くは、相続をきっかけに突然やってきます。自分で買ったわけでもない土地や家の維持費を、ある日から払い続けることになるわけです。
持ち続けるコストを実際に計算してみる
負動産の怖さは、金額の派手さではなく「終わりがないこと」です。年間コストの例を挙げます。
| 項目 | 年間の目安 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 数万〜十数万円 |
| 火災保険料(空き家は割高になりがち) | 数万円 |
| 管理の手間・交通費(遠方の場合) | 帰省1回あたり数万円 |
| 庭木の剪定・草刈りの外注 | 数万円 |
| 管理代行サービス | 月数千〜1万円程度 |
仮に年10万円としても、10年で100万円、30年で300万円。しかも建物は使わないほうが早く傷むので、払い続けた先に残るのは「より売れなくなった物件」です。ここが負動産の一番つらい構造です。
金銭以外のリスクもある
- 特定空家・管理不全空家の指定:空家等対策特別措置法により、管理状態が悪いと固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が跳ね上がる可能性があります
- 損害賠償:倒壊や屋根材の飛散で近隣に被害が出れば所有者の責任です。正直に言うと、現場で見ていて一番ダメージが大きいのはこの損害賠償リスクだと感じています。税金や管理費は金額が読めますが、事故が起きたときの管理者責任は上限が読めない。持ち主にとって、とても大きな負担です
- 次の世代への相続:放置すれば、この問題ごと子どもに引き継がれます。相続を重ねるほど共有者が増え、処分の難易度は上がっていきます
自分の物件が負動産かどうかの見分け方
実務でおすすめしているのは、感覚ではなく数字で確認することです。
- 査定を取る——複数の不動産会社に査定を依頼して「そもそも値段がつくのか」を確認する。ここで現実が分かります
- 年間維持費を書き出す——上の表を自分の物件で埋めてみる
- 使う予定を正直に問う——「いつか使うかも」の「いつか」に具体的な年数が入らないなら、使う予定はないと判断するのが実務的です
値段がつき、維持費より高く売れるなら、それはまだ「不動産」です。値段がつかない、または売却額より処分コストが大きいなら、負動産として出口を考える段階です。
負動産を手放す4つの選択肢
- 価格を割り切って売る——需要が少しでもある立地なら、相場より思い切った価格設定で買い手がつくことがあります(売れない土地の手放し方参照)
- 専門業者に買い取り・引き取りしてもらう——空き家・訳あり物件専門の業者は、一般市場で売れない物件にも出口を用意しています。値段がつかない物件は有償引き取りになることもありますが、「持ち続けるコスト」と比較して判断します(空き家の引き取り・買取サービスとは参照)
- 相続土地国庫帰属制度——相続した土地(更地)を国に引き取ってもらう制度。要件と費用はこちらの記事で解説しています
- 相続前なら相続放棄も選択肢——ただし土地だけを選んで放棄することはできません(土地だけ相続放棄はできない話参照)
まとめ:負動産はババ抜きと同じ——早抜けが一番いい
身も蓋もない言い方をすると、負動産はババ抜きと一緒です。持ち続けている間はコストとリスクを引き受け続け、最後まで手放せなかった人(多くの場合、次の世代)が一番重い負担を背負う。だから早く抜けた人が一番得をします。
査定の現場で6年半見てきた実感として、負動産の出口は年々整ってきています。引き取り業者や国庫帰属制度など、10年前にはなかった選択肢が今はあります。一方で、物件そのものは時間とともに確実に条件が悪くなっていきます。
「いつか考えよう」の間もコストは出続けます。まずは維持費の計算と査定で、自分の物件の現在地を数字で知るところからです。実家・空き家の処分手順の全体像は実家・空き家の手放し方まとめにまとめています。
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律・税務の助言ではありません。制度の内容や税負担は物件・地域・時期により異なります。個別の判断にあたっては税理士・司法書士・弁護士等の専門家や自治体の窓口にご相談ください。

